講師ブログ

海外での子どもの日本語学習〜複数言語を学ぶメリットと現地語との関係〜

 こんにちは、まなぶてらす講師のよしのりです。

 これから、「海外在住の子どもの日本語学習」についての情報をお伝えしたいと思います。今回は、特に「複数の言語を学ぶメリット」「母語と現地語の関係」についてまとめました。

 現在私はオランダに住んでおり、海外在住の子どもたちを対象に日本語学習サポートをしています。また、娘が現地の学校に通って3年目になります。

「現地の言葉と日本語の両方を維持するというのはとても難しい」

 いろんな子どもたちに接する日本語講師として、そして一人の保護者としてそれを強く感じます。
一般的に海外生活での日本語学習は難しいとされており、子どもたちの日本語に触れる機会が限られている中で、私たちはどのように子どもの日本語環境を設定すれば良いのでしょうか。

 この記事では、私自身が日本語講師として書籍や経験から学んできたこと、そして親としての経験を織り交ぜながら情報を共有できればと思います。現在の私も模索中の身ではありますが、海外生活でお子様の日本語環境について悩んでおられる方のお役に立てれば幸いです。

 

絶対的な処方箋はないのが「バイリンガル・マルチリンガル教育」

 子どもの複数言語を発達させるために必要なアプローチは、その子の年齢や性格、海外在住年数などによって異なります。
 「バイリンガル・マルチリンガル教育はこうすればうまくいく!」という処方箋はありません。なぜなら、子どもの年齢、海外在住年数、性格、興味・関心などの条件が全く同じになることはほとんどないからです。例えば、同じ年齢でも海外在住の年数が異なればアプローチは変わってきます。そして、子どもたちの興味・関心によって日本語学習として使える教材も変わります。つまり、子ども一人ひとりをよく観察し、それぞれに合った環境設定が求められるのです。

 

バイリンガル・マルチリンガルのメリット

 現在はグローバル化が進行し、あらゆることがスピーディに変化する世の中になりました。いろんな価値観が混ざる現代では、他者の考えを受け入れながらうまく折り合いをつけていくことが求められていきます。海外生活では「言語に紐づく複数の文化を経験」でき、他者を理解しようとする力が身につきにます。そして、複数の言語(文化)を身につけることによって、子ども自身の世界が広がるとともに、世界全体がより密につながっていきます。

 複数の言語を学ぶメリットは、以下のように記されています。

・思考の柔軟性
・言語に対する理解力・分析力
・話し相手に対する配慮
・他者への偏見、差別意識が低くなる

(中島和子『完全改訂版 バイリンガル教育の方法ー12歳までに親と教師ができること』より)

 例えば、「水」と言っても言語によって呼び方が異なったり、「お湯」と”boiled water”など状態が変わっても呼び方が変わったり変わらなかったりすることを学びます。そういった経験によって、言語を広く捉え分析しようとする思考が働きます。
また、自分のことばが通じずうまくコミュニケーションが取れなかった経験からも、相手を配慮した行動ができるようになると考えられています。そして、複数の文化を経験することで価値観が凝り固まりにくく、異文化への受容度が高くなります。

 

 

基盤は「母語・継承語」、現地語との「相互作用」で発達

 複数の言語がある環境の中で、子どもたちはどのように「ことば」を発達させていくのでしょうか。
まず、大人の私たちがあらかじめ理解しておかなければならないことがあります。それは、「母語が確立されていない子どもが複数の言語を同時に習得する」というのは、母語が確立された大人が外国語を学ぶのとは全く異なる過程をたどるということです。

 まだ母語が育っていない子どもは、抽象的な意味の言葉は母語でも理解できないことがあります。そのため、第2・3言語を習得する土台づくりとして母語を確立することが必要になります。その一方で、学校での学習言語が母語ではない場合、そちらの言語も育てていかなければなりません。その過程の中で、第2・3言語である学校の学習言語が成長することで、母語の力も伸びることもあります。つまり、複数の言語の中で生活する場合、母語・継承語と現地語の両方を大切にしなければならないということです。

 母語と第2・3言語の関係について、現在では子どもの中にある複数の言語は別々に存在するのではなく、お互いに作用し合っていると考えられています。ことばの概念や学習に対する姿勢は言語を超えて共有しているのです。そのため、両方の言語を刺激し続けることで、どちらの言語もお互いに作用しながら高めていくことができます。

 

以上、複数言語を学ぶメリットと、母語と現地語の関係についてまとめさせていただきました。海外で現地の学校に通っている場合、どちらの言語もモノリンガルの子よりは劣っているように思うかもしれません。しかし、目には見えにくいものではありますが、モノリンガルにはない視野の広さや思考の深さが身についていると考えることで、子どもをポジティブに見ることができるかもしれません。

できないことよりもできるところに目を向け、それぞれが「置かれている状況での強みを活かす」という考えが大事なのです。次回は、もう少し具体的に「海外での日本語学習の現状と対策」について書かせていただきたいと思います。

 バイリンガル教育についてもう少し詳しく学びたいという方は、今回私が参考にした中島和子さんの著書『完全改訂版 バイリンガル教育の方法ー12歳までに親と教師ができること』(アルク選書シリーズ、2016)をご覧いただければと思います。専門的な内容も含まれるため、少し難しいところもありますが、海外での日本語学習の不安と向き合うヒントを与えてくれると思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
よしのり
学習塾4年と公立高等学校社会科教諭8年の経験を活かして、生徒の希望する進路実現のサポートをいたします。また、現在はオランダに住んでおり、海外に住むお子様の日本語学習のサポートも行なっております。日本の大学受験や海外での日本語学習について情報発信できればと思っております。よろしくお願いいたします。