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海外での子どもの日本語学習〜現状と対策〜

 こんにちは、まなぶてらす講師のよしのりです。

 今回は前回に引き続き、海外での子どもの日本語学習について、特に「学習環境としての現状」や「継続的な日本語学習に必要な考え方」について情報共有をさせていただきたいと思います。

こちらの記事は、海外在住の子どもの日本語学習にお困りの保護者の方向けです。継続的な日本語学習と向き合っていくためにはどうすればよいか、そのヒントになるものが提供できれば幸いです。

 

 

海外での日本語の維持が難しい理由

◯動機づけが難しい

 日本語を家庭内でしか使うことがなく、日本語で関わる友達が限られている場合、日本語を学ぶモチベーションを保つのが難しくなることがあります。モチベーションが保てないまま、学校が終わった後や週末に日本語の勉強するとなると、嫌がる子どももいるかもしれません。

◯日本語への自信のなさ

 日本語で親に上手く自分の気持ちを伝えられなかったり、日本語を話す人と上手く会話ができなかった経験をすることで、子ども自身が日本語に対して自信を失うことがあります。そういったネガティブな経験をすることで、日本語を使うことを避けるようになり、友達とのコミュニケーションや学校で使っている現地の言語を意図的に使うようになることがあると考えられています。

◯年齢と教科書のギャップ

 日本語の学習教材の1つとして国語の教科書を使って学ぶ場合、読む力や漢字のレベルが到達していないことから、教科書の学年を下げることがあります。そうなると、年齢に合わない内容を学ぶことになるため、興味を持ちにくいことがあるそうです。これは子どもの年齢が上がれば上がるほど、そのギャップが大きくなってきます。

 

 以上の理由からも、海外で日本語を学ぶことそのものが相当大変だというのが分かります。ちなみに言語学の研究者の見解によると、「海外で母語の教育を充実させるなら、学校教育の中に組み込まなければならない」としています。それぐらい、個人の働きかけで子どもに母語を学ぶ環境を設定するのは難しいことなのです。

 

 

 

保護者としてできること

 

◯家庭教育が中心だと考える

 家庭の中では、家族の会話と絵本の読み聞かせが効果的です。母語を話す家族との会話では、現地語と過度な混同は避けて母語をしっかり使う機会を設けることが何より重要です。ただし、家族間の会話では愛情に包まれ、互いにリラックスすることが前提なので、多少の単語が混ざってくることは容認し、言い間違いなどにはさりげなく言い直してあげる程度にしておかなければなりません。つまり、話すことに緊張感が生まれないようにして、何よりも「伝えたい」という気持ちを子どもに持たせてあげることが大切です。
ちなみに、会話を活性化させたい場合、イエスorノーが答えになるような「クローズドクエスチョン」ではなく、場所や様子など詳細までを尋ねる「オープンクエスチョン」を使うのが効果的です。

 

◯「週末補習校」は補助的な役割

 週末の補習校の学習によって、子どもの母語の力はどれぐらい身につくのでしょうか。私が書籍から学んだ情報によると、週に1度2〜3時間の学習では、会話面では学年相応の力は付けられますが、日本語の読解力は小学4年生どまりになるという結果が出ているそうです。そして、これは日本語の補習校だけでなく、他言語の補習校でも同じような結果が出ていると言われています。つまり、日々の小さな積み重ねが重要だということを示しています。

 

◯過剰な期待を止め、子どもの自信喪失を回避する

 自分の子どもが日本語をうまく話せていないと感じた時、そこに焦りを感じてしまう方も多いと思います。
日本語と現地語が時々混ざってしまったり、親から見てどちらの言語も中途半端だと感じる時に、その状況を捉える角度を少しだけ広げていただきたいと思います。

 それは、どちらの言語もできていないというネガティブな見方ではなく、「この子は2つの言語を頑張って学んでいる、どちらの言語もできてえらい!」とポジティブに考えることです。そうすることで、子どもの言語に対する考え方が変化するきっかけになります。
そして、保護者のポジティブな考え方に影響された子どもは「自分はどちらも中途半端でダメだ」という考えから、「両方できるように頑張ってみよう」と思うようになるかもしれません。

 保護者の価値観は言葉となり、それがメッセージとして子どもに伝わります。やがては、それが子どもの考え方に影響していきます。子どもがポジティブな気持ちで複数の言語を学べるように、保護者がポジティブな姿勢を持つことが重要です。できないことに囚われるのではなく、できることを認めていこうというのがヨーロッパ多言語主義のポリシーでもあります。それは、保護者自身の生き方に対しても同じように考えて良いのではないでしょうか。

 

子どもたちは学校で日々”survive”

 日本人が海外で生活し現地の学校へ通う場合、子どもは現地の学校では異なる言語で学ばなければいけません。そこでは、他の子どもたちに負けないように、必死に現地の言葉でのコミュニケーションや学習を頑張っています。言語がわからないことで悔しい思いをして、何かしらのビハインドを感じていることもあるでしょう。そんな時に、家に帰ってから「日本語ができていない」と言われたとしたら、子どもはどんな気持ちになるのでしょうか。どちらの言語にも自信を持てなくなってしまいます。

 

継承語日本語は「興味・関心」を大切に

 継承語とは、いろんな定義があるのでイメージだけをお伝えしますと、「その人が暮らす社会では使用されていないが家族や子どもの周辺のコミュニティで限定的に使用されている言語」です。つまり、子どもにとっては母語といえるほどの刺激を受けられないことになります。

 日本に住んでいれば、学校で先生が黒板に書いたり、授業中に教科書の文字に触れたり、外に出かければ嫌でも多くの日本語を見かけるので、ひらがな・カタカナ・漢字のように覚える文字が多くてもさほど気にはなりません。

 しかし、海外で暮らす場合、日本語に触れる機会そのものが限られ、現地の言語が圧倒的に有利になることで、子ども自身も現地でのコミュニケーションの方に傾いていってしまいます。そのため、継承語(母語)としての日本語を維持するためには、どうしても日本語に触れる機会を積極的に用意していく必要があります。しかし、過度に子どもに求めすぎてしまうと逆効果になることもあります。だからと言って、わずかな量では日本語の維持にはつながりません。バランスを保ちながら子どもの日本語の力をつけるというのは本当に難しいことです。

 

 そこで大事なのは、継続的な学びにつなげるための日本語への興味・関心をどれだけ育てるかだと私は考えています。楽しい!」という気持ちが学習を継続させ、その継続によって自信を生み出し、いざ自分でやろうと思った時のエネルギーの土台になると私は考えています。

 

 そのためには、日本語で友達とのつながりを感じつつ、日本語で学ぶことが楽しいと思える環境づくりが必要です。それは漫画やアニメ、テレビゲームなどでも良いと思います。つまり、学校とは別の「日本語」でつながれる仲間、子ども自身の好奇心や興味・関心を大切にして、学習者自身が日本語を学びたいと思えるようにします。
私自身もまだまだ勉強中の身ですが、学習者である子どもが母語・継承語の学習に前向きに取り組み、その言語に自信を持てるようにするための模索をこれからも続けていきたいと思います。

 最後に、前回もご紹介させていただきましたが、バイリンガル教育についてもう少し詳しく学びたいという方は、今回私が参考にした中島和子さんの著書『完全改訂版 バイリンガル教育の方法ー12歳までに親と教師ができること』(アルク選書シリーズ、2016)をご覧ください。少し内容が難しいところもありますが、海外での日本語学習の不安と向き合うヒントを与えてくれると思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ABOUT ME
よしのり
学習塾4年と公立高等学校社会科教諭8年の経験を活かして、生徒の希望する進路実現のサポートをいたします。また、現在はオランダに住んでおり、海外に住むお子様の日本語学習のサポートも行なっております。日本の大学受験や海外での日本語学習について情報発信できればと思っております。よろしくお願いいたします。